繰上返済と住宅ローン控除、どっちを優先すべき?

繰り上げ返済VS住宅ローン控除住宅ローン

「最初の10年は繰り上げ返済しないほうがいいですよ。住宅ローン減税がありますから」この言葉は、不動産会社が良く言うアドバイスです。本当にそうでしょうか?実は、真に受けると損するケースもあるんです。

繰り上げ返済とは?

繰り上げ返済とは、まとまったお金が作れたら、毎月の返済とは別に、元金だけを繰り上げて返済してしまう方式です。次の図は、一部繰上返済によって、返済期間が短縮されるケースです。

期間短縮型の繰り上げ返済例
筆者
筆者

期間が短縮しただけでなく、本来は払うはずだった利息も減っているのがわかりますね!

お金がたまったら、どんどん繰り上げ返済したほうが、無駄な利息を払わなくて済むわけね!

住宅ローン控除(減税)とは?

住宅ローン控除とは、正式名称は「住宅借入金等特別控除」と呼び、住宅ローンでお金を借りて家を買ったら、税金を安くしてあげますという制度です。どれだけ減税されるかというと、住宅ローンの12月末時点の残高(借りているお金)の1%が、所得税・住民税から10年間も控除されます。

ただし、年間控除額には上限が決められおり、消費税が必要な住宅は最大40万円消費税が不要な住宅の場合は最大20万円となっています。

新築なら、40万円×10年=400万円もお得になるのね!!

筆者
筆者

あくまで最大ですけどね!所得税・住民税から控除されるので、年収が高くないと最大の効果は得られないんです。

繰上返済 VS 住宅ローン控除

住宅ローン控除は、年末のローン残高の1%で計算されるから、10年間は繰り上げ返済しないほうが良さそう!!

筆者
筆者

実はそんな単純な話でもないんですよ。

金利が1%を超えている場合

借入中の住宅ローン金利が1%を超えていたら、繰り上げ返済したほうがお得になります。理由は、住宅ローン控除は、年末のローン残高の1%で計算されるからです。つまり金利が1.2%だったら、控除よりも金利のほうが0.2%上回っているわけですから、できるだけ早く返したほうが良いわけです。

筆者
筆者

固定金利を選択している場合、金利1%を超えるケースがあります。その場合は、繰り上げ返済を優先してください。

金利が1%以下の場合

この場合は、計算が複雑です。住宅ローン控除は、借入残高の1%の控除を必ずしも得られるとは限らないからです。

新築物件を借入額3,000万円で、変動金利0.48%、返済期間35年、年収480万円、扶養家族は子供が1人のケースで実際にいくら還付金があるのか見てみます。

経過年年末残高残高×1%
(A)
最大控除額
(B)
納税から控除できる額
(C)
還付金
(A~Cの最小値)
0122,921.0 万円29.2 万円40 万円24 万円23.8 万円
1122,841.7 万円28.4 万円40 万円24 万円23.8 万円
2122,761.9 万円27.6 万円40 万円24 万円23.8 万円
3122,681.8 万円26.8 万円40 万円24 万円23.8 万円
4122,601.3 万円26.0 万円40 万円24 万円23.8 万円
5122,520.5 万円25.2 万円40 万円24 万円23.8 万円
6122,439.2 万円24.4 万円40 万円24 万円23.8 万円
7122,357.6 万円23.6 万円40 万円24 万円23.6 万円
8122,275.5 万円22.8 万円40 万円24 万円22.8 万円
9122,193.1 万円21.9 万円40 万円24 万円21.9 万円

最初の数年は「残高×1%」よりも、実際に戻ってくる「還付金」のほうが少ないわ

筆者
筆者

そうです。借入残高の1%の控除を得られていないんです。この現象は年収のわりに借入額が多い時ほど発生します。

新築物件の別のケースを見てみましょう。借入額6,500万円で、変動金利0.75%、返済期間35年、年収900万円、扶養家族は子供が1人のケースで実際にいくら還付金があるのか見てみます。

経過年年末残高残高×1%
(A)
最大控除額
(B)
納税から控除できる額
(C)
還付金
(A~Cの最小値)
0126,335.5 万円63.4 万円40 万円74 万円40.0 万円
1126,169.9 万円61.7 万円40 万円74 万円40.0 万円
2126,003.1 万円60.0 万円40 万円74 万円40.0 万円
3125,835.1 万円58.4 万円40 万円74 万円40.0 万円
4125,666.0 万円56.7 万円40 万円74 万円40.0 万円
5125,495.7 万円55.0 万円40 万円74 万円40.0 万円
6125,324.1 万円53.2 万円40 万円74 万円40.0 万円
7125,151.4 万円51.5 万円40 万円74 万円40.0 万円
8124,977.5 万円49.8 万円40 万円74 万円40.0 万円
9124,802.3 万円48.0 万円40 万円74 万円40.0 万円

年末残高が4,000万円を下回るまでは、還付金はずっと40万円なので、「残高×1%」よりも、実際に戻ってくる「還付金」のほうが少ないわ。

筆者
筆者

その通り!初年度を見てみると、(A)の「残高×1%」は63.4 万円ですが、実際の還付金は40万円と、0.63倍になっています。つまり残高の0.63%しか控除が受けられなかったことを意味します。金利が0.75%だとすると、繰り上げ返済を優先したほうが良いでしょう。

次に、中古物件を借入額3,000万円で、変動金利0.70%、返済期間35年、年収600万円、扶養家族は子供が1人のケースで実際にいくら還付金があるのか見てみます。

経過年年末残高残高×1%
(A)
最大控除額
(B)
納税から控除できる額
(C)
還付金
(A~Cの最小値)
0122,924.1 万円29.2 万円20 万円28 万円20.0 万円
1122,847.6 万円28.5 万円20 万円28 万円20.0 万円
2122,770.7 万円27.7 万円20 万円28 万円20.0 万円
3122,693.1 万円26.9 万円20 万円28 万円20.0 万円
4122,615.1 万円26.2 万円20 万円28 万円20.0 万円
5122,536.5 万円25.4 万円20 万円28 万円20.0 万円
6122,457.3 万円24.6 万円20 万円28 万円20.0 万円
7122,377.6 万円23.8 万円20 万円28 万円20.0 万円
8122,297.3 万円23.0 万円20 万円28 万円20.0 万円
9122,216.4 万円22.2 万円20 万円28 万円20.0 万円

ええ~!!全然、「残高×1%」の控除を得られてないじゃん!!

筆者
筆者

そうなんです。中古の場合は、最大20万円と上限が低いため、2,000万円以上の借入をすると1%の減税効果を最大限に発揮できません。

結論

住宅ローンの金利が1%を超えていたら、迷わず繰り上げ返済を優先で良いでしょう。しかし、金利が1%を下回る場合は、ケースバイケースになってきます。住宅ローン控除が、最大の控除を適用できるなら、繰り上げ返済せずに住宅ローン控除を適用していく方向で問題ありません。新築なら借入残高4,000万円、中古なら借入残高2,000万円が分岐点なのですが、住宅ローン減税は、所得税と住民税から控除されるため、所得が少ないと支払っている税金も少ないため、控除額の上限に達しない可能性が高いのです。

  • 金利が1%を超えていたら、繰り上げ返済を優先させる
  • 金利1%以下で、新築の場合は、年末の借入残高が4,000万円を下回るまでは繰り上げ返済を優先
  • 金利1%以下で、中古の場合は、年末の借入残高が2,000万円を下回るまでは繰り上げ返済を優先
この記事を書いた人

宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー

2007年から不動産業界や金融業界で働いてきました。その知識をもとに、世の中の人に業界の裏事情も公開していきたいと思います。

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